あの清流、四万十川だ。
ここは四国の中でもめちゃくちゃ僻地だ。
こんな僻地に物好きな1400人のランナーが集まった。
ここに来るまで汽車を乗り継ぎ、乗り継ぎクタクタになったが、
ここの自然は濃厚だ。
山の緑も清々しい。
四万十川沿いの桜道を走る42.195kmのフルマラソン。
桜は五分咲き。快晴。気温6℃。向い風が強い。
スタートからゴールまでワンウェイなので、終始向い風に悩まされそうだが
秘かにサブフォーを狙っていた。
スタートのときは寒くて身体がブルブル震えた。
参加人数がこの程度なら、いつもとは違いスタート地点で先頭に陣取って号砲を待った。
高知県知事が発する号砲でスタートした。
さすがに先頭に陣取っている連中の走りは速い。
ものすごいスピードで駈けていく。
あの走りがサブスリーランナーの走りかと感心しながら
自分のペースを守り、サブフォーペースで15km地点を通過した。
緩やかなアップダウンはあるが快調だ。四万十川の名物は沈下橋(ちんかばし)だ。
ここを走るときはスリルを感じる。
うっかりすると四万十川に転落してしまいそうな橋だ。
「それ」は突然やってきた。20km地点で左足に異変が起きた。
急に左足に力が入らなくなり、転倒した。
つま先がブラブラに垂れ下がって自由が利かない。半身不随だ。
「あ〜、俺の人生、終わった」と思った。
ただ事ではないと直感したのだ。脳梗塞か。
「死ぬのは構わないが、走れなくなるのは困る」そう思ったよ。
私の家系は短命で、みな血管が破れたり、詰まったりして死んでいる。
とうとう来るものが来たか。
60歳過ぎまで生きることができたのだから良しとしよう。
受け入れよう。この状況を。
清流が流れる静かな深い山のなかで、なぜか落ち着いた心境になれた。
死ぬときもこういう心境で死ねると幸せだ。
係員の人にリタイアを告げるとすべての力が抜けた。
四万十の自然が胸に沁みる。
最後尾のランナーが走り過ぎるまで待たされ、収容車で送還された。
翌日、道後温泉でのんびりしようと予定を立てていたが
脚の自由が利かないので、歩くこともできない。
のんびり温泉どころではなかった。
カミさんの肩に支えながらでないと一歩も歩けない。
「すまんなぁ、苦労をかけて」という思いと
「来年の確定申告では障害者控除を使おう」などと
税理士ならではのセコい考えが頭をよぎる。
そんなことより、これからどうやって生きていこう。
名古屋に帰って診察してもらい、とりあえずMRIの
精密検査を受けることになった。
検査の結果、転倒での腓骨強打による腓骨神経麻痺だ。
膝から下の神経が麻痺した。全治三か月。
幸い脳に異常はないみたいだ。
餓死のためのトレーニング(断食)を挙行しようとした後に
マラソンでひっくり返ったものだから
餓死する前に死んでしまうかも知れないと思ってしまったのだ。
しかし、死ぬか生きるかというような大袈裟な故障ではなく、
単に加齢で肉体と運動能力が衰えていただけだったのだ。
要するに歳を考えずに頑張りすぎたということだ(とほほほ)。
「私が死んだらセンセー、相続税の申告、頼むわ」
とたくさんの人から予約注文を受けている身なので簡単には死ねないのだよ。
アーツ顧問
花村会計事務所
税理士:花村一生
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